「今日は、どこにも行かない。」
そんな選択ができる日が、こんなにも贅沢だったなんて、少し前までは知らなかった。
土曜日の朝。
目覚ましもかけず、自然に目が覚める。カーテン越しに差し込む光が、部屋をやさしく照らしていて、なんだかそれだけで気持ちが満たされる。予定がないことに気づいて、思わずふっと笑ってしまった。そうだ、今日は“空白の一日”だった。
コーヒーを淹れて、のんびり着替えたら、なんとなく外に出てみた。目的なんてない。ただ歩くだけ。行き先も決めずに、いつもの駅前とは反対方向に足を向ける。
公園の道には木漏れ日がゆれて、鳥の声と小さな子どもたちの笑い声が混ざって聞こえてくる。ベンチには読書する人や、おしゃべりに夢中なカップルがいて、それぞれの時間をそれぞれに楽しんでいるようだった。
私はただ歩きながら、ふだんなら気づかないようなものに目を向ける。
道ばたの雑草に咲く小さな花、風にそよぐ葉の音、空に浮かぶゆっくりした雲。時間があると、世界はこんなにもやさしく見えるのか、と少し驚く。
少し疲れたら、木陰のベンチに腰かけて、スマホはあえて取り出さない。ただ風を感じて、ぼーっとしてみる。そんな時間が、今の自分にとっていちばん必要だったのかもしれない。
忙しい日々の中では、何かをしないといけない気がしてしまう。
でも、本当は“何もしない日”を持つことが、心の整理になったり、自分を取り戻す手段だったりするんだと、今日は改めて思った。
「歩くことだけが目的の一日」
そんな週末が、心をこんなにも整えてくれるとは思っていなかった。
また来週もきっと忙しい。だけど、その前にこうして、何にも縛られずに過ごす日があると、ちょっとだけ強くなれる気がする。
予定のない週末。それは、予定以上の贈り物だった。