ほんの少しだけ、遠回りして帰ろう

解体2025/04/03 2025/04/07

「まっすぐ帰るの、もったいないな」
そんなふうに思う日が、最近ちょっと増えた。

いつもなら、駅から家まで一番早いルートを歩く。時間を無駄にしないため、効率的に、一直線に。けれど今日だけは、あえて遠回りして帰ることにした。理由は特にない。ただ、空の色がきれいだったから。そんな些細な理由でいいと思った。

脇道にそれると、懐かしいパン屋の香りが鼻をくすぐる。あれ? こんなところに雑貨屋さんがあったっけ。ふと足を止めてショーウィンドウを覗いてみる。どれもこれも手作りで、使い込まれたような温かみがある。普段なら気にも留めない小さな発見に、なんだか嬉しくなる。

少し歩いた先には、知らない公園があった。ベンチに腰を下ろして一息つくと、空はもうオレンジ色に染まっていた。木々の間を風が抜ける音、小さな子どもたちの笑い声、自転車のブレーキ音。ぜんぶがやさしくて、急ぎ足の毎日をそっと緩めてくれる。

ふと思い出す。最近、忙しさを理由に「立ち止まること」を忘れていたな、と。便利さに慣れすぎて、景色を見る余裕すらなかったかもしれない。いつもは見えなかったものが、遠回りをすることで急に視界に入ってくる。それは景色だけじゃなく、自分自身の気持ちも同じかもしれない。

目的地に向かうだけが人生じゃない。ちょっと回り道をして、寄り道して、無駄と思えるような時間を楽しんでみると、案外そこに大切なことが隠れている。

あの日見つけた雑貨屋さん、週末にまた寄ってみよう。あのベンチにもう一度座って、コーヒーでも飲みながら、ゆっくり空を眺めてみよう。

そんなふうに、小さな楽しみを自分の中に作っていくのも悪くない。

「ほんの少しだけ遠回りする」
それだけで、世界がちょっとやさしく見えるから不思議だ。